今年リリースの邦楽アルバムベスト5選

気づけば年の瀬。

皆さん無事に仕事は納めてきましたか、ダイエット計画は達成しましたか、貯金の目標額は達成しましたか。

画面越しの皆さんの顔が芳しくないようですのでちゃっちゃと本題入りましょう、そうしましょう。

 

本記事は2017年にリリースされた邦アーティストのアルバム、およびミニアルバム(言うところのEP)のうち、

「これだけは絶対買うべき!」

という5枚を、私の独断と偏見、歪んだ音楽遍歴から生る性癖を基準に選考したものです。

尚、本来は例年通り10枚選ぼうとしていたのですが、社会人生活が始まって音楽と距離ができてしまったのか、盤を買うという機会がめっきり減ったしまったのか、頑張っても9枚しか思い浮かばなかったので、いっそ5枚に厳選する方向にしてしまえということになりました。

以上、言い訳も終わったところで早速珠玉の5枚、紹介していきましょう。(紹介順は順不同)

 

1. Cornelius - Mellow Waves

いきなりこれかよ!独断も偏見もくそもあるか!

という満場一致感は否めないが、やはり今年を語る上でこれは外せない。

1曲目から耳の中を音の波でたっぷりと浸す「あなたがいるなら」

渋くて重いダブのビートはポストジェイムスブレイクのようなテクスチャを持っている一方で、紡がれる言葉は限りなく甘美。

このコントラストこそまさに"Mellow Waves"だと、思わず膝を叩いてしまう。

そこからギターも軽快な「いつか/どこか」へ。

オルタナティブとエレクトロの旨味のバランスが素晴らしい。

そして5曲目の「夢の中で」が個人的にこのアルバムのハイライト。

ポップス要素を究極まで煮詰めたようなキャッチーサウンドは、キャリアを重ねた今の彼だからこそ組み上げられるものではないだろうか。

その後も小気味良い「Mellow Yellow Feel」、長雨を思わせる「The Rain Song」と続き、ラストに「夢の奥で」を迎えるが、これもまた素晴らしい。

本当に夢の奥底に眠る記憶を掘り出したような、ドリーミーで耽美的なフィナーレ。

円熟した小山田圭吾の真骨頂が発揮されたこの1枚なしに、今年は語れない。 

Mellow Waves

Mellow Waves

 

 

2. Yooks - Newtownage

京都発、ニュータウンポップ。

YogeeやAwesomeなどのシティポップ勢やSuchmosやNulbarichなどのブラックミュージック再解釈勢とは異なる、ニュータウン=郊外(サバービア)に軸足を置いたサウンドは、頭打ち状態だった日本のインディーズ界に新たな方向性を提示しているように思える。

まずは是非リンクにも貼ったリードトラック、「hanashi」を聴いていただきたい。

限りなく地に足がついていて、淡白だからロケーションを選ばない。

とはいえ薄味かといわれると折々リズム隊の骨太さが垣間見えたり、ここ一番のコーラスやファルセットが美しかったりと、実に手が込んでいる。

このガチャガチャと物を詰め込みすぎないサイズ感と、細部まで作り込んだ音像のディテールは、ちっとやそっとの経験、才能ではできない代物だ。

アルバム単位でも、気怠い日曜の空気を繊細な感性で切り取っている「Sunday Tripper」や胸を締め付けるサビが持ち味のサマーアンセム、「Leaving Summer」など、文句のつけようのないクオリティ&センス。

ともすればこういうバンドは曲同士の傾向が似通ってしまうため、「どれを聴いても同じような感じ」という現象に陥りがちだが、その点Yooksはメンバーのバックグラウンドが多様なのか、自分たちの核にあたる部分を基準に、様々なジャンルの美味しいところを盛り込んでいて、それぞれにキャラの立った楽曲に仕上がっている。

シティにやってきた郊外の風の快進撃は、まだまだ続きそうだ。

 

3. 台風クラブ - 初期の台風クラブ

京都が巻き起こした爆弾低気圧台風クラブ

去年、一昨年とTempalayやNever Young Beachなどの日本のフォーキーな要素や渋みのある声を西海岸的な明るいサウンドに掛け合わせるムーブメントがあったが、彼らはそういった流れに近似性はあるもののまったく異質な方向性を持っている。

はっぴぃえんどのリバイバルと解釈しても、サイケロックバンドと括りを広げても、なおするりと指の隙間から抜け出していくオリジナリティ。

その才能は、冒頭を飾る「台風銀座」からいかんなく発揮されている。

ジャングリーな裏打ちのギター、むき出しのベース、ざらついた独特の声質。

そして何より、その詞のセンス。

逆さの意味の形容詞と名詞を組み合わせるグロテスクさ、気障になりすぎない絶妙な言葉選びは、「唯一無二」と言い表して差し支えないのではないだろうか。

彼らの音や詞はまさしくバンド名や曲、歌詞の中にある「台風」そのもので、夏の湿り気をはらんで轟轟と街を練り歩いている情景をありありと僕らの心に描き出してゆく。

また、台風クラブのもうひとつの持ち味ともいえるのが、荒削りに聞こえる雰囲気とは裏腹な複雑で技巧に富んだコード進行や演奏だ。

3曲目「ずる休み」では始終トリッキーなギターが鳴り、ラスト手前「飛・び・た・い」でもサビで抑え目ながらもドラムの手数はすさまじい…。

このギミックがアルバム全体のスパイスとなって、彼らが醸し出す「カッコよさ」につながっている。

上記以外もスロウな「ダンスフロアのならず者」や「処暑」、軽快な「ついのすみか」「飛・び・た・い」、ラストにふさわしいセンチメンタルなコード進行の「まつりのあと」まで、バランスよく最後まで楽しめる仕上がりだ。

2017年に留まらず、是非来年の夏にも聴きたい1枚。 

初期の台風クラブ

初期の台風クラブ

 

 

4. 東郷清丸 - 2兆円

年の瀬も迫る11月下旬、突如現れて(本当はもっと早くから知っていた耳の早いリスナーはいたのだろうが)業界に、というか僕に激震を走らせたSSW、東郷清丸。

まず名前がすさまじい、ソロなの?そういうユニット名なの?

そしてかなり攻めたジャケットのアートワーク。

「何だこれコミックバンド…?」と思いながら聴いた「ロードムービー」は、完全に不意打ちだった。

カクバリズム一派にも通じるサウンドと、甘く優しい声色。

しかしこの1枚をノミネートした理由は、その引き出しの多さとアウトプットの多さ。

なんせこのアルバム、デジタル盤だと全60曲にものぼる。

しかもそれがギターによる弾き語りだったりちょっぴりブラックなやつだったり、ファンクっぽいやつだったりと、あらゆる顔を持っている。

そのうちA面的な最初の10曲に詰め込まれたキャッチーさは、今年リリースの曲の中でも群を抜いて素晴らしい。

特に歌詞に関しては、3曲目「SuperRelax」の以下の引用部分が印象的だ。

良い風が来るよ

 

肌感覚の解像度上げてく

力まず自然体の声で紡がれる、この情景。

SSWとして、詩にも歌にもセンスが存分に発揮されていることが、この曲を聴くだけでよく分かるのではないだろうか。

60曲もあればどれがオススメとは言い難いが、「サマタイム」や「赤坂プリンスホテル」のようなご機嫌なチューンからはまず聴きたいところ。

暮れのリリースにもかかわらず強烈な印象を残したアルバムだった。 

2兆円

2兆円

 

 

5. けもの - めたもるシティ

お待たせいたしました、お待たせいたしました。

今年たった1枚しかCDが買えないなら、無人島に1枚持っていくなら、絶対に選びたい1枚ことめたもるシティ。

これだけで記事1つ書き上げられるくらいに、今作は素晴らしい出来だった。

それは菊池成孔氏の作り出すポップスとジャズ、打ち込みと生のバランスに起因するところではあるが、歌詞の同時代性、いわゆるシンパシーも重要なエッセンスになっている。

上の「めたもるセブン」を例にとっても、オリンピックに向けて形を変える町並み、自己肯定感の低さを払しょくする瞬間、そういった「2017ness」を非常に巧みに描き出している。

そう、とにかくけものは、歌詞のセンスが規格外なのだ。

「めたもるセブン」というある種アルバムのヤマを越して続く「tO→Kio」なんて、最早言葉に言い表せないほど。

銀座の街に革命が起こったら

どのブランドを着て闘おうかな?

アイという名前の子は

愛について結構普通

ブランドと名前という生後と生前にもたらさられる自分を外から定義するものたち、そのコントラストをたった2文で纏める文才には、思わず舌を巻く。

このともすればやりすぎになってしまうアクの強い言葉たちを、いとも簡単に彼女たちは使いこなしてしまう。

こんなの、卑怯としか言いようがない。

勿論、音楽的なアプローチの素晴らしさも見逃せない。

ジャジーなアレンジやキュートなキーボードの音選び、中性的な男声コーラス。

それらはニューミュージックから渋谷系ネオ渋谷系、シティポップのモードを踏襲しながらも尚、どこにも属さない現在進行形の新しい音楽を生み出している。

「オレンジのライト、夜のドライブ」のドライブソング感、「C.S.C」の軽やかなブラス、「フィッシュ京子ちゃんのテーマ」のニューウェーブ的アレンジ、その1つ1つがシティポップのその先を、実に明確にとらえているのではないだろうか。

極めつけはアルバムの最期を締める「Someone That Loves You」

ミニマルな構成で表現する、ストレートながら外連味のないこの曲に、アルバムを通して聴くたびにノックアウトされてしまう。

これを聴かずに2017年は終われない、これを聴かずに2018年の音楽ブームは予想できない。

このアルバムを知ることが今後のポップスを定義するうえで欠かせない、いわばマイルストーンのような1枚だ。

メタモルフォーゼ(変態) を遂げる日本のポップスを物語る今作、自信を持ってオススメしたい。

めたもるシティ

めたもるシティ

 

 

ということで駆け足でではありますが全5枚、僭越ながら紹介いたしました。

可能であれば2017年ベストトラック20のような記事も書こうと思います。

可能であれば

それでは皆様、良いお年を。